2017年6月16日金曜日

『いのちの輝きに寄りそう』 柏木哲夫先生



淀川キリスト教病院理事長で、日本で初めてのホスピスケアを実施された柏木哲夫先生のお話を聴きました。テーマは『いのちの輝きに寄りそう』。


生命といのちは違う
生命から連想する言葉
「生命保険」「生命維持装置」
死んでしまったら終わり⇒有限
いのちから連想する言葉
「君こそわがいのち」「いのちの泉(讃美歌)」
死んでも生き続ける/涸れない⇒無限

私の生命は間もなく終焉を迎えます。しかし私のいのち、すなわち私の存在の意味、私の価値観は永遠に生き続けます。ですから、私は死が怖くありません。
これまでの医学は生命は診てきましたが、いのちは診てこなかった。これからの医学はいのちを診ていく必要があります。(中川米造先生)

生命
有限性、閉鎖性(身体の中に閉じ込められている)、客観性(血圧・尿量・心電図等)
いのち
無限性、開放性(広がっていく)、主観性(人によって違う)


いのちの無限性
重度心身障害の息子さんが40代で亡くなり、悲しみに暮れていたご両親でしたが、息子の写真を持って二人で旅に出るようになった。ある時飛行機の窓際に写真を立てていた。機内サービスの客室乗務員がその写真を見て感動し、もう一つのコップにジュースを注いで「窓際の方にもおひとつどうぞ」と差し出した。

写真の中に息子のいのちを見ている両親
客室乗務員もそのいのちを見た
写真に気づき、感動し、ジュースを差し出した感性

感性の3要素
気づき・感動・行動
行動が伴ってこそ感性が完成される


緩和ケアの要素
生命を診る
症状のコントロール「痛みを取ってほしい」
症状が取れても、心・社会・スピリチュアルな問題を抱えている
不安・落ち込む・イライラ・せつない・・・

いのちを診る
心の問題・たましいの問題にアプローチする

存在の意味
「何もできないままで生きている意味がない」
「私の人生って何だったのでしょうね」

価値観の尊重

平等意識
患者は弱者⇔ケアをする者は強者
回復可能な患者さんは強者側の社会に戻れる
末期の患者さんはやり直しがきかない
看取る者・看取られる者
人間として平等という意識が大切
            
親切なもてなし
ラテン語のホスピチウム(hospitium)
ホスピスの語源
ホスピスの精神
  
家族を診る
予期悲嘆のケア  近々別れなければならない悲しみ
死別後の悲嘆のケア


ホスピス・緩和ケア病棟に求められる4つの要素
明るさ・広さ・静かさ・温かさ
施設・建物だけでなく、働いている人に求められる資質でもある



全人的痛みの理解
「全人的痛み 図」の画像検索結果
 
                                           図:恒藤暁(1999)


終末期の主要な身体症状
亡くなる30日前から全身倦怠感と食欲不振は100%体験する
痛みは2か月前から出現
その他多彩な身体症状が出現する

「死別後、つらかった時何が助けになったか」の1位が安らかな死だったこと
患者さんの苦痛コントロールは家族の悲嘆を軽減する。

痛みがあると何もできないで時間だけが過ぎていく
今は経口モルヒネだけでなく持続皮下注入法が使える
日常生活動作(立てる・歩けるなど)が低下すると生活の質が低下する
末期の患者さんのニーズは一人一人違うので、
ホスピスケアでは個別に個性を重んじたケアが必要


「癒す」の二つの意味
ホスピスに来る人は病気はもう治らない
「ここにきて癒されました」という言葉の意味は

三省堂国語辞典
1)病気・苦痛などを治すこと
2)長い間欲しくてたまらなかったものを手に入れさせて満足させること  

欲しかったものが手に入った=気持ちが分かってもらえた
⇒「ここにきて癒されました」

痛みをもって日々生活することがどれくらいつらいか気持ちをわかってもらえた
余命が長くないせつなさはかなさつらさをわかってもらえた

末期患者の共通の願い 「気持ちをわかってほしい」
つらい・悲しい・寂しい・やるせない・むなしい・はかない・・・陰性感情

経験していない者に分かるはずがない
「わかりますよ」とは言えない

気持ちの理解
陰性感情を表現する言葉を会話の中に入れる
「それはつらいですね」
「そうですか、悲しいですね」
「本当に、やるせないですね」
情を込めて言う


引っ張り症候群
分子標的治療薬の登場により、医師が治療を引っ張り、
患者・家族の死の受容の時間を奪うこと
分子標的治療薬は副作用が少なく延命効果がある
そのため治療をやめられなくなる
身辺整理や家族との対話ができないまま、急変して亡くなる
終末期に緩和ケアに専念する場合は死の受容への援助が十分にできる  


家族ケアの3大要素
1.予期悲嘆のケア
  別れを予期して悲しむ家族のケア
  悲しみを表現しておく方が死別後の悲嘆のプロセスがスムーズ
  悲しみを表現できるように場所と時間を提供する         
2.死の受容への援助
3.死別後の悲嘆のケア 


寄りそい人に求められるもの=人間力
支える
落ちてしまうから支える(下から)
技術が要る(痛み・症状のケア)

寄りそう
寄りそっていれば自力で何とかなる(横から)
人間力が必要(スピリチュアルなケア)

寄りそいさえすれば、一人一人は死んでいく力を持っている
マザー・テレサ 死を待つ人の家
路上で孤独に死んでいく人々に交わりの提供をした=寄りそい

寄りそい人に求められるものとは

 1.聴く力
  訴えたいことをしっかりと聴く
  個人的な関心を持ってしっかりと聴く
  心も注いで聴く
  アクティブリスニング

 2.共感する力
  共感力を高めるために
  自分と患者さんをイメージの中で入れ替える

3.受け入れる力

4.思いやる力

5.理解する力
  その人の生活史を把握する

6.耐える力

7.引き受ける力  
  覚悟を持つ

8.寛容な力

9.存在する力
  何もできないけれどもそこにいる

10.ユーモアの力


ホスピスの初期 「その人がその人らしい生を全うするのを支える」
10年経って 「寄りそう」ことこそ末期の患者さんに最終的にできること


「人はその責任外で起こったことを引きずりながら亡くなっていく」
頑固に壁を作ってどうやっても入れてくれなかった患者さん
ライフヒストリーを知ると、生きるために壁を作ってきたことが分かった
その人らしい生を全うするのに寄りそう

「人はその責任外で起こったことを引きずりながら生き、老い、死ぬ」
ということを理解する    

2 件のコメント:

  1. いろいろと、考えてしまいます。感情は動きますね~。

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    1. >かずっちさん
      そうですね。柏木先生のお話、行って良かったです。
      終末期医療もグリーフケアも、亡き人の宿題みたいなものです。ちゃんと取り組んで持って行かないとね。

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